沼の見える街

ぬまがさのブログです。おもに映画の感想やイラストを描いたりしています。

『愛を積むひと』観た…。

  • 先日うっかり観てしまった映画『愛を積むひと』の感想を書こうと思います。感想というか、ただの文句ですが。渋谷シネパレス、1000円。サービスデイに見ておいてなんですが、正直1000円でも安いとは思えませんでした。
  • まあ最初に言っておくと、観る方も悪いんですよ。「北海道で第二の人生を送る熟年夫婦の心温まる物語」なんて観るなよ…。観るなよ!そりゃ大体はつまんないだろそんな映画!!(暴言)
  • 投げやりにあらすじを説明すると、佐藤浩市樋口可南子の夫婦が、東京でいろいろあって北海道の美瑛に越してきて、草原に立つオシャレな感じの家で暮らしてるんですね。で、なぜか家の周りに石壁を作ろう、みたいな話になるんです。その過程でいろんな人と触れ合ったり、人が死んだり死ななかったりします(雑)。
  • この世にはいくらディスっても胸が痛まない映画というのも存在しますが、本作のような「いい映画」っぽい作品を批判するのは少し気がひけるんですよね。でも、つまらないものはつまらない。せめて、どうしてつまらなかったのかを真剣に考えてみたいと思います。
  • イヤまあ最大の理由は、あえてこの言葉を使いますが、「老人向けだから」なのかもしれません…。劇場はほとんど中高年層で、私は明らかに浮いていました。それなりにウケていたし、「感動的」な場面ではけっこうすすり泣きも聞こえてきましたよ。だから、まあ、いいんじゃないですか。明らかに対象層の違う映画を観た私が迂闊だったのです。観る方も悪い。………でも……映画も悪いんですよ!!!
  • なんといっても、全編にわたってひたすら薄っぺらい描写が延々と続くのが本当に苦痛でした。とにかくリアリティがない。この人たちが生きてそこにいるという気がしない。台詞も展開も人物造形もすべてがテンプレで、ただただつまらない。岸部露伴がどうしてあんなにも「リアリティ」を重視していたのか、よくわかりました。リアリティがないと「どうでもいいからさっさと終われ」としか思えなくなるからなのですね。
  • 佐藤浩市が不自然な白髪頭でヒョイっと登場した時点で、なんか嫌な予感はしてたんですよ…。もっと言えば、美瑛の美しい情景が大写しになる冒頭から、なぜか「あ、この映画は合わないな」と思ったんですよね。なんでだろ。別に、普通にキレイな風景だったのですが…。人間とは、映画とは、不思議なものじゃありませんか…(適当)。
  • 樋口可南子もさあ…。もちろん、きれいで優しそうで、魅力的な女優さんなんだと思いますよ。でも樋口さんの演じた妻・良子という人物のテンプレっぷりが、この映画のつまらなさの最大の要因であることは間違いないと思います。「体は弱いけど、明るくてちょっとお茶目な優しい良き妻」。ああ死ぬんだろうな、と思っていたら案の定死にました。はいはい。悲しいですね。思いっきりネタバレしてしまいましたが特に胸は痛みません。
  • この映画だけの問題ではありませんが、「後の悲しい場面を引き立てるためだけに存在するテンプレ幸せ描写」は、もうなるべくやめようよ…。現代の観客は、なんか上っ面な「幸せ描写」を見せられると、「ああ壊れるのね、はいはい」ってわかっちゃうんですよ…。逆に優れた作品は、その点に細心の注意を払っていることがよくわかります。記号的ではない「幸せ」だからこそ、あとでそれが壊れてしまった時に胸に迫るんじゃないですか…。
  • 三人目の主人公ともいえる、野村周平の演じる男の子・徹のエピソードも、ひどいもんだなと思いました。説明すると、徹はこの物語において二つの「過ち」を犯してしまうんですね。(1)「昔の悪い仲間にそそのかされて、主人公夫婦の家に強盗に入り、大事なネックレスを盗んでしまう」こと。そして(2)「付き合ってた女の子を妊娠させてしまう」こと。
  • この二つ、個別のエピソードとしてもテンプレの枠を全く出ていない(微妙に社会的弱者への偏見すら感じる)退屈な代物なのですが、それ以上に、物語全体の中で噛み合ってないことが問題だと思う。やっと(1)が解決したと思った直後に(2)の話が始まるから、ダラダラ長くてうんざりしてくるんですよ。せめてどちらかに絞るべきだったのでは…。さらにここに主人公夫婦の娘の心底どうでもいいエピソードまで絡んでくるもんだから、もう、みんな死ね、と思います(心が荒みすぎだろ…)。
  • まあ、そもそもは『石を積むひと』という小説が原作になってるわけだし、この映画の作り手だけを責めるのは間違いなのでしょう。でも現代版アレンジにしたってちょっといただけない…。病気とか、死とか、貧困とか、犯罪とか、妊娠とか、不倫とか、親子問題とか、「それっぽい」テーマを散りばめすぎたせいで、ひどく焦点のぼやけた作品になっていることは間違いないです。それぞれの問題の掘り下げが浅くなり、薄っぺらい物語になってしまった。
  • そしてそう感じるのは、私の人生経験が足りないから、とかではないと思う。歳を重ねればこの映画の良さがわかる、とかではないと思う。「老人向けだから」とか冗談めかして言っちゃいましたが、それは違うと思う。つまらなかったのは、映画の出来が、よくないからだと思います。
  • だから劇場で、感じの良い礼儀正しそうな中高年の皆さんが本作を観ていて、それなりに満足して、「地味だけど、いい映画だね」みたいな雰囲気になってて…。なんとも言えない気持ちになりました。こんなの全然「いい映画」じゃないですよ。「いい映画」の皮を被った、ダメな映画ですよ。この世にはもっともっと面白くて素晴らしい映画がたくさんあるでしょう!! めちゃくちゃ失礼なことを言いますが、大人しくこんな「老人向け」をたしなんでないで、質の良い作品をちゃんと探して、そっちを観ることに貴重な残り時間を使ってほしいです。本当に死ぬほど大きなお世話だろうけど。
  • まあ、劇場にいた中高年の皆さんも、実は心の中では「つまんなかったな…口直しに『マッドマックス』もう一回みよっと」とか思っていたのかもしれませんね。そんなわけないか。でもそうだといいな。だってジョージ・ミラー監督なんて70歳なんですよ(今それ関係ある?)
  • 蛇足ながら、なんでこの映画をそもそも観たかというと、「ほぼ日」の影響ですね。ウェブサイトの「ほぼ日」。大好きなのです。で、今ちょうど、本作の公開に合わせて、糸井さんと佐藤浩市が映画にまつわる対談をしていると。その記事の内容自体はさすが「ほぼ日」、面白く興味深いものでした。佐藤浩市も、そりゃきっと素晴らしい俳優なのでしょう。でも、それと映画の出来とはぜんぜん別の話です。
  • とはいえ、良かったところもありました。とくに柄本明は、笑いの面でもシリアスな面でも、地味ながらこの映画を支えていましたね。本作のMVPでしょう。あと、まあ、美瑛の風景はやっぱり綺麗ですし、カメラワークもカッチリしてて好みでした。うん…そんくらいかな…。
  • ていうか、ちょっと調べてみたらこの映画、総務省とタイアップしているのですね…。「地方への移住・交流を促進することを目的として」って。ハァ…。本作をみて「美瑛に住みたい!」って思うような、頭にラベンダー畑が広がってるような方は、住めばいいんじゃないですか。というか住まなくてもいいんじゃないでしょうか、もはや…広がってるんだから…頭に…。
  • いや、実は一度行ったことがあるのですが、美瑛自体はとてもきれいで良いところでしたよ。サイクリングしたりして、実に気持ちよく過ごせました。べつにこんな映画に頼らなくても、十分魅力的な土地だと思いますよ、美瑛。
  • うわあ長くなってしまった…これは引きますね。散々なことを書いてしまいましたが、いつもより何倍も推敲を重ねたのです。「批判の方が気を使う」法則、見事に発動してしまったな…。こんなこと書いたって、別にたいしてスッキリしないし、というか読み手の皆様はそもそも本作なんぞに何の関心もないだろうし、書き手の印象が悪くなるだけで何も良いことはないのですが、なんか、書いちゃいました。「この映画、好きなのに…」とお気を悪くされた方、(万が一)いたらごめんなさい。人それぞれですよ、映画なんて。
  • 明日は口直しに『マッドマックス』もう一回みよっと。傑作の予感漂う『アリスのままで』も観たいです。ではまた。