沼の見える街

ぬまがさのブログです。おもに映画の感想やイラストを描いたりしています。

『バケモノの子』の志

  • 『バケモノの子』を観ました。TOHOシネマズ日本橋、1100円。結論から言えば、細田守監督作ではいちばん好きですね。作品うんぬんというより、作り手の志(こころざし)の高さに心打たれました。報われてほしいです。すでに大ヒットしているようですが、もっとガンガン売れればいいと思う。それこそ『アナ雪』みたいに…(いくらなんでも無理か)。
  • あ、今日はあんまり映画そのものの話はしません…。わりとぼんやりした周縁の全体的な話です。公開直後ですし、詳しくは日を改めて…。
  • 最初に断っておくと、いわゆる「大傑作!」とか「アニメ史に残る作品!」みたいに言うつもりはないです。えっとですね…。予告編をみて「きっとこのくらい面白いんだろうな」と期待した分と、大体おなじくらい面白いのではないかと思います。いや、この言い方だとつまんなそうに聞こえるかもしれませんが、これってすごいことですよ。大抵は期待以下ですから…。いわゆる「ふつうに面白い」を地でいくような、誰が見てもある程度は確実に満足できるであろう、良質なエンタテインメント作品です。大々的な広告で世間の期待度も高まっていると思いますが、「裏切られた」と感じる人は少ないことでしょう。
  • 先ほど「志が高い」と言ったのは、細田守監督って、やっぱりものすごーく「今後の日本のアニメ映画界」のことを考えている方だと思うんですよ。本作でもそれをひしひしと感じました。だって、そもそも「劇場オリジナル長編アニメ大作」って、もはや細田監督以外に誰も作ってないですよね…? たまーにアニメ映画がヒットしたって言っても、ドラえもんポケモン妖怪ウォッチ、ヌルめの子供向けキャラ映画ばかりです。最近だと「ラブライブ」もすごかったようですが、あれもバーッとコアなファンが詰めかけてそれで終わり、みたいな感じだったようですし。(世間的には『まどマギ』だって似たようなものかもしれませんが…。)だから子供向け以外はもう、少数のディープなファンがこっそり楽しむもの、みたいになってると思うんですよ、だいぶ前から日本のアニメ映画は。
  • ジブリがいるじゃん」って思われるかもしれませんが、いまやスタジオジブリは超マニアックな映画ばっかり撮ってる変態ハードコア集団ですからね…。それでヒットするんだから本当に大したもんですが、「娯楽」の要素は今後もあまり期待できないかもしれません。大ヒット作『風立ちぬ』なんて娯楽映画でもなんでもないですよ…! あれをみて「ふつうに面白かった!」って思う人は感性がハードコアなので気をつけたほうがいいです。その後の作品をみても、(傑作とはいえ)『かぐや姫の物語』は相当アート寄りの映画でしたし、『思い出のマーニー』もエンタメかと言われると「うーん」ですしね…。
  • また、個人の監督で素晴らしい才能を持つ方も多いですが、「劇場向け娯楽大作」を、それもコンスタントに作っている方となると、ちょっと思い当たらない。たとえば原恵一は日本を代表するような物凄い天才だとは思いますが、やっぱりどうしても「単館志向」というか、大スクリーンで大ヒット!みたいな方向にはあんまり行ってくれません。傑作『百日紅』も、普段アニメを見ないし杉浦日向子も知らない、いわゆる「一般客」に十分届いたかといえば怪しいものです。
  • で、やっぱり細田監督は、そういう現在の「アニメ映画界」にたいへん強い問題意識、もっと言えば危機感を抱いている方だと思うのですよ。その結晶が本作『バケモノの子』なのではないかと思います。そして何よりも、本作を「商業的に」絶対に成功させようとする覚悟を様々な点から感じる(わかりやすいとこだと声優の布陣とか主題歌とか広告の打ち方とか)。
  • もちろん誰だってそりゃ利益はあげたいでしょうけど、本作の作り手たちは大げさではなく、「この映画の成否が、アニメ映画の今後を決定づける」とさえ考えているのではないでしょうか。そしてその考えは、おそらく正しい。幸い素晴らしいスタートを切ったようですが、万が一本作がコケるようなことがあれば、こういう「国産オリジナル娯楽大作アニメ」っていう映画のジャンル、マジで消滅するんじゃないかと思います。
  • だからこそ、細田監督自身も相当に「濃ゆい」というか、アートっぽい尖った感性を持っているにもかかわらず、それをかなり封印してまで今回は「単純エンタメ」に徹したのではないでしょうか。で、そのバランスが本作においては相当プラスにはたらいている。
  • 細田作品って毎回大ヒットしますけど、一方でけっこう激烈な批判や反感を呼び起こしもしますよね。『サマーウォーズ』の時も賛否ありましたが、特に前作『おおかみこどもの雨と雪』の「割れっぷり」は半端ではありませんでした。
  • そういう細田作品への反感って、「気持ち悪い」「なんかイヤ」みたいな、生理的な感覚に根差していることが多い気がするんですよね。いわばアニメファンにも映画ファンにも均等に、挟み撃ちのように叩かれてしまいがちな存在というか。その「なんかイヤ」な気持ちも、正直けっこうわかります。
  • でもそれはやっぱり、コアなファン向け(言ってしまえば「オタク向け」)に閉ざされたアニメ映画というジャンルを、なんとか広く開かれたものにしようという細田監督の努力の結果でもあると思うのです。
  • で、その努力は基本的には成功しているものの、時として「なんかイヤ」的な気持ち悪さの理由となる「歪み」も生んでしまうのかもなと思います。監督のディープな作家性がわりと全開になっており、それでいて一般にも広く開かれていた作品『おおかみこども』では、特にその「歪み」が目立ってしまったということなのかも。(『サマーウォーズ』の不人気なヒロインはその「歪み」の申し子じゃないかと思っていて、逆に興味深いのですが…。)
  • そして、その努力がとうとう『バケモノの子』で本格的に身を結び始めたんじゃないかと思いました。細田作品特有の「歪み」がだいぶ解消されていて、(死ぬほど失礼な言い方をしますが)今までで一番「気持ち悪くない」細田作品だと思います。「なんかイヤ」感が大幅に減じて、誰もがスッキリ楽しめる、至極まっとうなエンターテインメントになっている。そしてそれこそは今、現代日本アニメ映画界における最大の空白だと思うのです。本来ならその場所こそが、アニメの作り手たちにとっての花形であるべきなのに。
  • 長々と書いて何が言いたかったというと、本作がメガヒットしてくれれば、日本のアニメ界はもっと面白くなって活性化するのではないか、ということです。素晴らしい腕をもっているのに微妙に地味な(例:原恵一)アニメ監督たちが、「オリジナルのエンタメ長編」という最高の土俵にガンガン上がってくるための道が開けるかもしれない。なので、アニメを愛する紳士淑女の皆様、とりあえず本作は劇場で観といてください。雑ですがもう長すぎるので終わります。また後日くわしく。