沼の見える街

ぬまがさのブログです。おもに映画の感想やイラストを描いたりしています。

『日本のいちばん長い日』みた。

  • 原田眞人監督『日本のいちばん長い日』リメイク版を観た。京成ローザ、1400円。今日は用事があって千葉駅に行ったんですが、高校生の頃によく通ってた京成ローザで久々に何か観るか、と思ったらちょうど本作が公開初日だったので観ました。
  • 一言で感想を言うと、「把握しきれない部分もあったけど、凄い映画だということは伝わってきた」って感じ。頭の悪い感想で恐縮ですが…。テーマがテーマなので議論を呼ぶ作品かもしれませんが、今このタイミングで作られたこと、そして今観ることに意義のある、非常にタイムリーかつ重要な映画だと思います。
  • とか言ってオリジナル版(67年・岡本喜八監督)は未見なんですけどね。映画に詳しい人には「見てないのかよ…」と呆れられる気もするけど、本作がリメイクされたのは、古い映画とかあんまりよく知らない私のようなヌルい映画ファンのためでもあると思うので、気にしない。でも本作で興味が湧いたので、いずれオリジナルも観ます。
  • ざっとあらすじを言うと、1945年8月に日本が降伏を受け入れるまでの日々を描いた、実話ベースの物語。あえて一言でまとめるなら、「戦争を終わらせることの大変さ」を描いたお話です。おもな主人公は3人で、昭和天皇本木雅弘)と、当時の総理大臣の鈴木貫太郎山崎努)と、陸軍大臣の阿南惟幾役所広司)です。( )の中を含め色んな意味でスゴイ面子ですね…。
  • 特に、昭和天皇をここまで正面から描いた作品は、日本映画でも他に例がないとのことです。ちょっと意外。物語の中で天皇を描くというのはやっぱり大変ハードルが高いんですな〜。あらゆる方面から石を投げられそうですしね…。オリジナル版でも(時代の制約もあり)昭和天皇はちょびっとしか登場しなかったとのことなので、「天皇が主人公」というのがまずは本作の大変に画期的なポイントということですね。
  • この映画で本木さんが演じた昭和天皇は、穏やかで人当たりも良く、生物学を愛するなどの開かれた感覚をもっている人物として描かれていました。「歴史的に忠実に再現しよう」というよりは、やや抽象化された「天皇像」を本木さんに表現してもらおう、という狙いが原田監督にはあったようです。この時点で「理想化しすぎ!」と怒る人も出てくるかもしれませんが、「この戦争が始まったのはそもそも天皇の責任が大きい」というようなこともセリフできっちり説明されますし、その辺のバランスは考えられていると感じました。
  • 特に天皇東条英機が交わす、「サザエ」に関するやりとりが印象深い。軍隊を滅ぼしてでも日本という国を残そうとする天皇に対して東条が、「軍隊ってのはサザエにとっての殻なんすよ!殻がなくなったらサザエ死ぬでしょ!日本も軍隊がなくなったらヤバいっすよ!」って言うんですね(こんな口調じゃないけど)。すると天皇が「いや、アメリカとか海外のやつらはサザエなんて殻ごと捨てるんじゃねーの」とか身も蓋もない返答をするもんだから、東条は「うぐぅ…すみませんでした」と引き下がるわけです。
  • このやりとり、原田監督が勝手に、いや独自に付け加えたシーンのようですが、なかなか面白かったです。当時から天皇というのはある意味「理想」の象徴のような存在とされていたわけですが、むしろ「現実主義」を掲げる軍人なんかよりもずっと冷徹に「現実」を見つめていたのではないか。そうした見解が、実にスマートに描写されていたと思います。「生物学好き」な設定も生きてて、うまいですね。
  • しかし天皇がいくら知的で現実的であったところで、やはり独力で戦争を終わらせることはできない。「現実」に関与する大きな力がどうしたって必要になってくる。そこで「終戦」に向けて天皇から協力を求められるのが、老練な鈴木貫太郎。総理大臣に任命されるも、歳が歳なので(77歳)耳も遠いし体もヨロヨロしていたのですが、いかんせん演じているのが山崎努なので当然のように渋くてかっこよかったです(むしろ理想化されてるのは天皇よりこっちじゃね?って思うくらい)。
  • そしてもう一人、天皇が信頼を寄せるのが、役所広司演じる軍人・阿南。天皇にアナンというあだ名で呼ばれ、何かと慕われていた阿南は、陸軍大臣に任命されます。もちろん阿南の方も天皇LOVEであり、絶対の忠誠を誓っているので、それはもう協力したいのはやまやまなのですが、そこはやはり軍人。ずっと闘ってきた部下や仲間のことを思うと、なかなか「降伏」という結末と折り合いをつけることができません。天皇への忠誠と軍人としての責務の間で揺れる心が全編を通じて細かに描かれ、最後にはある哀しい結末に向かっていくことになります。
  • そして7月26日、ポツダム宣言が発令されます。アメリカ側が「さっさと降伏しないとみんな死ぬよ」と日本に突きつけてきた宣明ですね。かなり脅迫めいた内容でもあり、これを受け入れるか拒否するかで、政府の要人達の意見が割れまくります。阿南は「拒否しろ」と主張する一方で、鈴木総理は「無視する」という結論を出す。そして8月6日、広島に原子爆弾が落とされることになってしまい、事態はさらなる混乱へ…というのが大体の流れです。
  • そして…と続けようかと思ったのですが、今日はもう疲れたのでこの辺でいったん終わります。うん、やっぱり2000字とかではこの映画を語るのはムリでしたね…。語れないナイトでした。このシーンが美しいとか、あの役者がスゴイとか、一杯あるので、いずれもっと詳しく書ければいいなと思います。
  • 本作『日本のいちばん長い日』、134分という長めの上映時間の中でさらに説明をできる限り排除して、その空隙に複雑かつ重厚な人間ドラマを詰め込んでいるので、決してとっつきやすい映画ではありません。でも、確実に見た人の「現実世界に対する視点」に作用する強い力をもった映画ですし、こういうド硬派な映画が(こんなご時世に)ちゃんと上映されているというのは心強いことです。「戦争」をテーマにした最近の映画つながりで言うと、イーストウッドの『アメリカン・スナイパー』とよく似た質感をもつ作品だな、と個人的には感じました(話は全然ちがうけど、賛否が分かれそうなポイントとかが)。本作についても『アメスナ』みたいに議論が活発化して、何かを考える起点になってくれたらいいなと思います。いや、お前が考えろって感じですね。まずは異様な充実さを誇るパンフを熟読して、リメイク元を観て原作にもあたってみようかな…。今日はそんな感じで。ではまた。