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沼の見える街

ぬまがさのブログです。おもに映画の感想やイラストを描いたりしています。

スリット・ザ・ウォーボーイ

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  • イラストは『マッドマックス 怒りのデス・ロード』のニュークスの相棒、ウォーボーイのスリットさん。口元がダークナイトのジョーカーを連想させるので「Why so serious?」っぽくしてみた。mediocreとは何か、そもそもなんでスリットさんかは後述。
  • 今日『マッドマックス 怒りのデスロード』のセリフ(英語)の書き起こしをネットで見つけたので(ホントはいかんのでしょうが)、辞書を引きながら読んでみたのだけど、とても面白かった。
  • かなり字幕と違うところもあったんだけど、やっぱり字幕というのは翻訳のなかでも相当な「無理ゲー」なんですよね。膨大な情報を取捨選択し、1〜2行に圧縮しないといけないんだから…。セリフが少ない『マッドマックス』が楽かといえばそんなことはなく、少ないからこそ一つのセリフに込められた情報量はすごく大きい。それをできる限り正確に読み取り、時には泣く泣く切り捨てなくてはいけなかった字幕担当、アンゼたかしさんの苦労がしのばれます。エンドロールのラスト、おいしすぎるタイミングで名前が出るのも理由なきことではないのです(それにしたっておいしすぎるけど)。
  • 特に、二重否定や反語といった「言い回し」を反映させるのは極めて難しいので、皮肉やユーモア等ちょっとしたニュアンスを伝えることは至難の技。本来はそういう「ニュアンス」こそ脚本家の飯のタネであり、血眼になって追求してる部分だと思うので、(私程度の語学力では)味わい切れないのが惜しまれるんですが。
  • たとえばトーストが中盤でマックスに言う、「彼(ジョー)のお気に入り(スプレンディド)を撃つなんてね」というセリフは、原文だと "Of all the legs you had to shoot, that one was attached to his favorite."。直訳すると「あんたが撃たなきゃならなかった足のなかでも、よりによってその足は、あいつの一番のお気に入りにくっついてる足だったのよ」。荒っぽいマックスと、お人形みたいに美しいスプレンディド、どっちに対する皮肉にもなっててクールです。ただしこのニュアンスを字幕で伝えるのは、ま〜不可能ですね。
  • あと、トーストがマックスに対して「(私たちを)乱暴に扱わないでよ」みたいに抗議してた箇所は、 "Don’t damage the goods(品物を傷つけないで)"。この言い回しもけっこう自虐的というか、シニカルですよね。"We are not things."というのはスプレンディドが言い出したスローガンのようなので、理想主義的な彼女と若干ソリが合わなそうなトーストは、自分たちを"goods" 呼ばわりすることでちょっと当てこすってるのかも。
  • そんな感じに『マッドマックス』を「読んで」いくなかで、フュリオサと5人の妻の関係性にも色々な発見があったりしたわけですが、そのほかにも、今まであんまり意識しなかったけど良いキャラだな〜と思えてきた子がいまして。それがニュークスの相棒の槍手(ランサー)、スリットくんなんですけど。
  • この子、タマフルの放課後ポッドキャスト高橋ヨシキさんもイチオシしてたけど、敵ながら妙な可愛げがあるんですよね。「ジョー様がおまえなんて見る訳ないだろ!」の場面とか、せっかく輸血袋のブーツを持ってきたのに一緒に連れて行ってもらえないところとか。
  • さらに原文を見て気づいたのが、スリットの台詞として出てくる(イラストにも書いた)"mediocre"という単語。「二流」とか「平凡」といった意味の悪口です。日本語で言うと「凡骨」という言葉が一番ピッタリくると思う。ちょうどウォーボーイズ、みんな骸骨みたいだし…。
  • スリットがこの単語を使うのは、ヤマアラシの攻撃を受けて死にかけたモーゾフが「Witness me(俺を見ろ)!」と言いながら特攻する場面。みんな「Witness (見たぞ)!」と言ってモーゾフの死をたたえている中で、スリットだけがなぜか「Mediocre,Morsov! Mediocre!"(モーゾフ、この凡骨野郎め!)」と罵ってる。字幕では「よく死んだ!」になってたけど…。「凡骨」にしてはよく死んだ!っていうスリットなりの賞賛の言葉だったってことかな。ひねくれてますが、自分なりに個性を出そうとしててちょっと可愛い。
  • ちなみにこの "mediocre"、ウォータンクの上で転んで銃を落としちゃったニュークスを見て、イモータン・ジョーが吐き捨てる台詞として再登場します(字幕だと「間抜けが!」)。スリットがジョー様の言葉遣いに影響されてたってことなのか、それともジョーもウォーボーイズも大して精神性は変わらないんだよという表現だったのか…。なんか後者っぽいな。現にあそこで「ジョー様、大物ぶってるけど実はそうでもないんだな」って思った人も多いだろうし…。
  • もうひとつ、スリット関連で気づいたのは、砂嵐に突入する前に「輸血袋」マックスを殺そうとする場面。字幕だと「死ね!」みたいな簡素な台詞になってましたが、実際は"Hey, head. Say bye-bye to the neck! Decapito!!" 。直訳すると「おいアタマ、首にサヨナラを言いな!打ち首にしてやるぜ!」…あんな巨大な砂嵐を目の前にして、なかなか洒落っ気のあることを言いますね。(…ちなみにdecapitoは英語ではなく、イタリア語の動詞decapitare「首をはねる」の一人称活用か。なぜスリットがイタリア語を知っているかは不明。まあ車に縛られたマックスが吐き捨てる悪態 "Confacimus!!"もラテン語で"F◯CK!!"という意味らしいしな…。なんでこの世界の人はしょうもない外国語ばっかり知ってるんだ。)
  • あと、砦に向かうラストバトルでニュークスと再会した時、"You filth! You traitored him!"(クソ野郎!よくもあのお方を裏切ったな!)と叫ぶんですが、これ、ニュークスがフュリオサにぶつけた台詞と全く同じなんですね。ウォーボーイズ特有の語彙の少なさというのもあるんでしょうが、彼ら二人の対比によってニュークスの立ち位置の変化がグッと際立っている。
  • 二人の死に際もすごく対照的でした。「ヴァルハラー!」と叫びながらまっすぐ信仰に殉じて散っていったスリット(残念ながら誰もちゃんとウィットネスしてくれなかったけど…)。そして一度は生きる目的を失ったけれど、最後に自分の人生に意味を見出し、最も大切な「ウィットネス(証人)」を得て死んでいったニュークス。
  • 単なる狂信的な若者だったニュークスに起こった変化こそ、本作の最も感動的なポイントの一つであり、だから一般的なウォーボーイ代表であるスリットは、やっぱり物語的にもすごく重要なキャラだったんだと思います。(高橋ヨシキ氏、さすが。)…ていうか普通にこの子、敵サイドの人間としては一番活躍してたよな…。唯一主人公と2回も戦った相手だし(竜巻前と、ニトロ吹きこみ合戦)。少なくとも武器将軍と人喰い男爵よりは大事な役回りだと思う。ほんと何だったんだ、あのファッション中ボス達は…。それでもみんなの心にここまで強烈な印象を残してるんだから凄いけど。
  • 語り足りないですが長いのでこの辺で。「言語ネタ」はすごく興味深い分野なので、またちょくちょく書こうと思います。ヴァルハラー。

(11/12追記:あら、なんか急に多くの方に読んでいただけている…?嬉しいです! 同じく言語ネタですが、よろしければこちらもどうぞ…ヴァルハラーッ)

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