沼の見える街

ぬまがさのブログです。おもに映画の感想やイラストを描いたりしています。

『ラブ&マーシー 終わらないメロディー』みた。

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  • 映画『ラブ&マーシー 終わらないメロディー』(原題:LOVE & MERCY)を観た。角川シネマ有楽町、1000円。といっても観たのは先週だけど。なんだかんだ感想を書くタイミングを失っていたが、とても面白かったので、忘れないうちに書いとく。
  • 本作はロックバンド「ザ・ビーチ・ボーイズ」の中心人物、ブライアン・ウィルソンの人生を伝記的に描いた作品。実在するミュージシャンをモチーフにした映画化といえば、イーストウッドの『ジャージーボーイズ』とか、ジェームズ・ブラウンの一生を描いた『GET ON UP』とか、このところ傑作や力作が続いている。そして今度はビーチ・ボーイズ。若干「また伝記映画か…」と思いつつも、海外での評価が凄まじく高かったし、なんといっても主演がまさかのポール・ダノということで観に行ったのだった。
  • ちなみにビーチ・ボーイズのことはそこまでよく知らない。一時期ベスト盤をたまに聞いてたので、有名な曲は耳に残ってるけど、サーフィンがどうとか何となくチャラいイメージ。あとはペッシのスタンドとか、その程度の認識(?)。
  • さて本作、主人公のブライアン・ウィルソンを2人の人物が演じる。先述したポール・ダノが青年期(1960年代)を、ジョン・キューザックが中年期(1980年代)をそれぞれ交代でつとめる。ちなみにイラストの左と右です(似てないけど同一人物)。
  • 特にポール・ダノは驚愕の人選というか、ビーチ・ボーイズをよく知らない私でも「マジで!?」と思った。だってこんなに海とかビーチが似合わない俳優も珍しいでしょ…。爽やかさや陽気さや夏っぽさのカケラもないもの…。もう見るからにナード(いわゆるオタク)っぽい顔つきで、それもジョナ・ヒルとかニック・フロストみたいな愛らしい「陽」のナードじゃなくて、ひたすらじめっとした「陰」のナード。
  • 「なぜか殴りたくなる俳優ランキング」というのがあれば、ポール・ダノが上位に食い込むことは間違いないと思う。実際、近年の秀作『プリズナーズ』ではヒュー・ジャックマンにボコボコに殴られる男を怪演。『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』でも主人公にギタギタにされる神父を演じてたし、なんというか、拳を引き寄せる顔というか、理不尽な暴力を吸い寄せる顔というか、とにかく負の吸引力がある顔なんですよね…(…さっきから散々なことを言ってますが、素晴らしい俳優さんですからね)。
  • だから本作のキーイメージとなっている、ビーチ・ボーイズのメンバーが5人で海辺に立ってサーフボードをもっている写真も、正直最初は「ポール・ダノが海辺で罰ゲーム的な何かをやらされてる…」という風にしか見えず、若干のシュールさといたたまれなさを覚えてしまった。「なにも伝記映画にこんな癖のある俳優をもってこなくたっていいだろ」と…。
  • でも、映画が始まると、さすがというべきか、天才的なミュージシャンにちゃんと見えてくるのだった。それも『ジャージーボーイズ』のフランキーとか、『GET ON UP』のJBみたいに、「器(ハード)と才能(ソフト)が一致している」雰囲気ではないのが逆にすごくリアル。本作のダノが演じるブライアン・ウィルソンは、いかにも不安定で脆そうな「器(ハード)」の中に、音楽史を変えるようなとんでもない「才能(ソフト)」が入ってしまったことで、「歩く不協和音」みたいになってしまった悲劇の男。この「不協和音」感、つまり見ていて不安になってくる気持ち悪さを表現することが、ポール・ダノが抜擢された最大の理由だと思う。
  • 実際、映画全体にわたってポール・ダノは、ただそこにいるだけでほとんど暴力的なまでの「不協和音」感を生み出してる。それは、ブライアン・ウィルソンというミュージシャンの本質に関わることでもある。邦題の副題になっている「終わらないメロディー」は一見ださいけど、実は皮肉にも主人公の悲劇の本質を突いてるとも言える。外の世界と関係なくブライアンの脳内で延々と鳴り続けている「終わらないメロディー」が、ブライアンと人々の間に常に「不協和音」をもたらしているわけだから。どこにいても、何をしていても、調和が取れることはない。(だからポスターの写真で「ポール・ダノ、馴染んでねぇ…」と思ったのも、作り手の意図のうちなのかも!)
  • しかし、「不協和音」の中で生きることの苦しみが描かれているこそ、スタジオでブライアンが仲間と一から音楽を作り上げていくシーンが感動的に楽しい。唯一この場面だけは、ブライアンの不幸の元凶でもある「終わらないメロディー」が、わくわくするような素晴らしいものとして描かれていた。素っ頓狂な発想から、歴史的な名曲が徐々に出来上がっていく過程はまさにミュージシャン伝記映画の醍醐味。(今年みたヒップホップの傑作メイキング映画『THE COCKPIT』の雑多で賑やかな楽しさも連想!)
  • 語りきれないけど、80年代パートもすごく面白かった! もう一人の主人公、中年のブライアン役のジョン・キューザックももちろん良かったし、彼を操ろうとする悪徳医師ユージンを演じるポール・ジアマッティも、実に気持ち悪くて素晴らしかった。ユージンの支配からブライアンを救おうとする、(のちの妻となる)メリンダの戦いも燃える! あるサプライズ・ゲスト(って言ったらバレバレだけど)が登場するエンドロールには思わず涙。詳しく書きたいけどもう2000字オーバーなので、いったんここまで…。
  • ビーチ・ボーイズというバンドに改めて興味をもったので、とりあえず伝説の名盤とされる『ペット・サウンズ』を買って聴いている。音楽映画のいいところって、観た後に作中の曲を聴くようになったりして、(地味ながらも)人生が変わることですよね。フォー・シーズンズジェームズ・ブラウンも映画を観て以来くりかえし聴いているけど、観なければ出会わなかったかもしれないわけで。「映画を観る意味とは何か」という疑問に対するひとつの答えだと思う。というわけで今後はビーチ・ボーイズも聴こう…。あとグレイトフル・デッドも聴こう(それ今関係ある?)。おしまい。