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沼の見える街

ぬまがさのブログです。おもに映画の感想やイラストを描いたりしています。

『心が叫びたがってるんだ。』観た。

  • アニメ映画『心が叫びたがってるんだ。』(通称ここさけ)を観ました。TOHOシネマズ日本橋、1100円。
  • 観たのは月曜日(実写『進撃』後編とハシゴ)なので少し間が空いちゃいました。というのも、だいぶ感想を書くのが難しい作品で、なんとなく先延ばしにしてたんですよね…。
  • でもまあ、一応の結論を書いちゃおう。「あらゆる要素がハイクオリティな良作で、基本的には楽しく観たのだが、合わないところは全く合わず、全体としては苦手な作品という印象が残ってしまった」という感じでしょうか。歯切れわるっ!…うーーん。すごく微妙なラインなんですが…。
  • 本作についてざっと説明。2011年に放映された人気アニメ『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』の主要スタッフが再び集まって、(いまや細田守監督作を除けば絶滅危惧種と化している)劇場オリジナル長編に挑んでいます。
  • ざっくりあらすじ。主人公の少女・成瀬順(声:水瀬いのり)は、幼少時のとある出来事がきっかけとなり「声」を出せなくなってしまった。高校2年になっても誰とも話せない変人として過ごしている順だったが、ある日担任から「地域ふれあい交流会」のメンバーに加わるよう命じられる。無気力な音楽少年の坂上、野球部の元エースだったが怪我をして荒んでいる田崎、チアリーダーで優等生の仁藤、そして全く人と会話できない順。このイマイチ足並みの揃わない4人が、なぜかクラスを巻き込んでミュージカルの上演に挑むことになり…!?というお話です。
  • ぶっちゃけ、予告のポスターを見た時点では「スルーしよう」と決めてました。なんかもうタイトルと絵面からして「かんべんしてくれよ」ってなっちゃって(こういう人は少なくないと予想)、さらに『あの花』に対しても何とな〜くの苦手意識がありまして…。いや、DVD一巻ぶんくらいしか見てないんですけど、めんまちゃんの造形とか、メインテーマに「secret base」をもってくる甘ったるいセンスとかに、可愛らしさや懐かしさよりは「あざとさ」を感じてしまい、すぐに見るのをやめちゃったんですよね。名作と名高いアニメだし、ちゃんと見ればそりゃ面白かったんでしょうが…。
  • だからまぁ同スタッフによる本作もスルー案件だったわけですが、『バケモノの子』の感想の時に散々「オリジナル長編アニメはいまや絶滅に瀕している!今後のためにみんな観よう」みたいなことを書いておきながら、いざそれが来たら自分はスルーすんのかコラ!?と内なる声に罵られたので、多少合わなそうでもやっぱり見ておこう、と思ったのでした。めんどくさい客ですね…。
  • そんなわけで観に来た『ここさけ』ですが、蓋を開けてみるとこれが思った以上に面白くて! 観る前に予想していた「どうせこんな感じの話なんでしょ」というのとはだいぶ違っていて(特に前半は)普通にとても楽しかったです。「ああ、やっぱり食わず嫌いはよくないんだな」と思わされましたよ。
  • 良かったところをあげると、まずは作画の圧倒的な素晴らしさ! 特に主人公の少女・順はセリフがほとんどないにもかかわらず、ちょっとした仕草や動きや表情だけで、感情や思考がすごく豊かに伝わってくる。坂上が順に「おまえはしゃべらないくせに、何を考えてるか本当にわかりやすいな…」と呆れ気味に言うシーンがあって、その言葉に完全に同意してしまった(セリフに頼らずにキャラを生き生きと描写できていることの証し!)。続いて「そんなことないよ!」とばかりにブンブン首をふる順も、「そういうトコがわかりやすいんだよ!」と笑う坂上も、どちらも本当に愛らしかった。これはほんの一例ですが、こうした自然なやりとりがとても心地いいんですよね。
  • 作画以外にも、ちょっとしたセリフとか、とっさの反応とか、声優さんの演技とか、本当に隅々まで考え抜かれていて、全員にしっかりとした実在感がある。ひとりの少女を中心にして、それぞれの悩みや葛藤を抱えた普通の高校生たちが、だんだん足並みをそろえてまとまっていくその過程が、もう見ているだけで楽しい! 悪い意味で「アニメっぽい」不自然さや臭みは極力排されており、ふだんアニメを見ない層にも届くことを強く意識して作られたことがわかる。
  • (『響け!ユーフォニアム』にも言えることだけど)本作『ここさけ』は、実在感のある人間描写という点に関して言えば、もはや「実写に匹敵する」とかそういうレベルではなく、そのへんの邦画と比べるのは失礼なほどの領域に達していると思う。今年を振り返ってみても、『ここさけ』に匹敵するようなリアリティある「生きた」人物描写ができている邦画なんて、それこそ『海街diary』とか『きみはいい子』とか、トップクラスの数本程度でしょう(『進撃の巨人』?…知らない映画ですね…)。とにかくアニメファンだけが占領するには惜しい映画だし、かなり強気な公開規模にも納得せざるをえない、広く訴えかける力をもっている作品だと思う。
  • ただ、それを踏まえた上で言うのですが、観る前に感じていた「どうせこういう話なんでしょ」という先入観が、後半に進むにつれて現実化してしまったのも確かなんですよね…。
  • もうここからは完全に好みの話ですが、やっぱり肝心の「心が叫ぶ」、つまり「秘められた想いがほとばしる」的な場面が、私にはことごとく受け付けませんでした。その際の秀逸なアニメーション表現も、どちらかといえば鼻についてしまいました。
  • たとえば予告でもちょっと見られる、バス停の前で順が坂上に対して「わたしには言いたいことがたくさんある!」的なセリフを叫ぶシーンとか。作画もめちゃくちゃ気合がはいってて、声優さんも迫真の演技で、いわゆる「名場面」ってやつなんだろうけど、あれぞまさに「どうせこういう場面ばっかりなんだろ?いやだなあ」って思ってたシーンでしたね…(ばっかりではなかったんだけど)。
  • なんかそもそも、本作の根幹にある、「我慢しないで言いたいことをぶつけ合おう!本音を言おうよ!」っていう健全なテーマそのものに共感できない、というのも大きいのかも…。「いいじゃん、そんな無理して本音とか言わなくたって…」とか思っちゃうんですよね。「今まで通り嘘ついたり取り繕ったりしてりゃいいよ、もともといい子じゃんきみたち…」って。「なんで観に来たの?」って言われても仕方のない身も蓋もなさですが…。まあ単に、「気持ちをさらけ出すことで何かトラウマ的なものが解決する」という物語の構造があまり好きじゃないのかもしれません。
  • 新海誠の『言の葉の庭』でも思ったんだけど、せっかくそれまで美しい美術と抑えた演出で丁寧に進行していた作品が、なぜかクライマックスになると「お互いに泣きながら本音をぶつけ合う」みたいな「感動的なコミュニケーション場面」になっちゃって、そうなるとサーッと気持ちが引いてしまうんだよな…。「終わったら呼んでね」みたいに思ってしまう。感情的な盛り上がりを作る必要はあるだろうし、テーマを表現するための手段なのはわかるけど…。
  • しょうもない実写映画で(どの巨人とは言わないが)それをやるなら、単に「出たよ…」って感じで流せるんだけど、本作のように作画や演出がハイクオリティなアニメ作品でやられちゃうと、逆にいっそう「うげぇ」という感じになってしまうんだよな…。言いたかないけど、邦画の悪しき点をアニメ(それもすごく優秀なアニメ)がきっちりと受け継いでしまっているように思えて、なんだかな〜って感じ。
  • わりと適当な失語症の扱いとか、恋愛描写の安定のどうでもよさとか、他にも言いたいことはあるけど、一番「あーあ」と感じたのはやはりその点ですかね。細田監督にも言えることだけど、もうちょっと観客の「受け取る力」を信じて欲しい。感傷に流れずともテーマを伝える力が十分すぎるほどあるのに、もったいないように思う。どっちも素晴らしいアニメなので比べるべきではないけど、やはり『響け!ユーフォニアム』は、すごく受け手を信じている作品だったのだなと再認識しました。こうして今日もさりげなくユーフォを推すぬまがさであった(さりげなくねーよ)。
  • ああ3000字越え…もう終わります。でも本当に良いアニメですからね、『ここさけ』…!これが評価されなかったら絶対におかしい。公開規模もやたらでかいし、今後の劇場オリジナル長編アニメ界のためにもガンガン売れて欲しいです。私には合わないところもあったけど、間違いなくオススメの作品です(巨人の映画と逆ですね…)。つくづくアニメファンってのは恵まれてますな。ではまた。