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沼の見える街

ぬまがさのブログです。おもに映画の感想やイラストを描いたりしています。

『ジョン・ウィック』感想

映画

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  • 映画『ジョン・ウィック』を観たので感想を書こうと思います。TOHOシネマズ日本橋、0円(6ポイント鑑賞)。
  • キアヌ・リーブス主演のアクション映画。監督はチャド・スタエルスキーという人で、あんまり耳慣れない感じだけど、『マトリックス』とかでスタントの演出等を務めていた人らしい。ちょっと珍しい経歴ですね。
  • ストーリーは大変シンプル。愛する妻を亡くして打ちひしがれる男のもとに、ある日1匹の子犬が届く。失意に沈みながらも、その子犬の存在に男は少しずつ心を癒されていく…。…と冒頭の数分だけ書くとハートフルな感じなんだけど、なんと突然、家へ強盗に押し入ってきたチンピラのクズどもに子犬が叩き殺されてしまう!子犬の亡骸を前に泣き崩れる男は、クズどもへの復讐を決意する。そう、男の名はジョン・ウィック…。かつて闇の社会で最も恐れられた、無敵にして最強の殺し屋だったのだ!…という感じのお話です。ノットハートフル!
  • 去年公開の作品でいうと『イコライザー』が一番近いですね。あっちは、大人しくて気のいいデンゼルおじさんが実は歩く殺人兵器で、友達にひどいことをしたクズどもを軒並みブッ殺していくというハートフルな映画でした(間違ってはいない)。本作もその系列にあたり、俗に言う「舐めてた相手が殺人マシーンだった」映画の最新版ということになります。
  • この手の映画は基本的に「ストレス→バイオレンス→カタルシス」という流れになっていますが、ジャンルの中でも良作とされるものは「ストレス」の部分がとても良いんですよね。実際に主人公が暴力を振るい出す前の「ため」が丁寧。たとえば『96時間』でいうと娘がさらわれるシーン、『イコライザー』でいうとギャングの部屋で交渉をするシーン。ここがしっかり描けているほど、その後の「バイオレンス」に「やっちまえ!」という爽快感が生まれるわけです。
  • 本作は、わりと「ストレス」の部分はあっさりめ。その代わり、犬が殺された後に、ジョン・ウィックが殺し屋としてどれほど恐ろしい存在なのかを、第三者どうしの会話によってじっくりと描写する。そこから「バイオレンス」へ向かうボルテージを高めていくという作りなんですが、この部分がすごく良かった。
  • 特に敵ボスのヴィーゴが、ジョンの犬を殺して粋がっているチンピラ息子ヨーセフをぶん殴って、ジョンがいかにヤバすぎる相手なのかを淡々と教える場面は、地味に本作の白眉だったように思う。台詞回しと演技が生み出す緊迫感が最高だった。
  • 「お前が何をしたかが問題なんじゃない…誰を相手にしてるかが問題なんだ」と、息子に告げるヴィーゴ。「Who?... That fucking nobody?(誰なんだよそいつは?何てことない野郎だろ?)」と叫ぶ息子に対しヴィーゴは、「That "fuckin" nobody...is John Wick.(その『何てことない野郎』は…ジョン・ウィックだ)」と返す。ここからのシーンがとても上手いんですよね。
  • 「ジョン・ウィック」という台詞を合図にするように、なぜかハンマーを手に持って暗がりを歩く、不気味なジョンの姿がカットバックで映し出される。ハンマーを振り下ろし、部屋の床を粉々にしていき、かつての「仕事道具」を地中から掘り出し始めるジョン。
  • つまり、ジョンの「過去」が物理的に露わになっていく様子に被せて、「ジョンがいかにガチでヤバい存在か」という親子の会話を進めていくことで、「ジョンの秘められたヤバさが明らかになっていく」過程を、絵と言葉の両方向から、映画的かつスマートに説明しているわけですね。ジョンへの「恐怖」と「期待」が同時に高まっていくような作りになっている。
  • ここからのやりとりもすごくいい。ビビりながら「(あいつは)ブギーマンってわけかよ?」と言うヨーセフ。ブギーマンというのは映画のセリフにもよく出てくる、欧米の「恐ろしい怪物」の代表格みたいな存在ですが、それに対するヴィーゴの返答がしびれる。
  • "Well, John wasn't exactly the Boogeyman...He was the one you send to kill the fucking Boogeyman." 「いいや、ジョンはブギーマンってわけじゃない…。くそったれブギーマンを殺すために送り込まれるような男だ。」
  • 「あいつは怪物なんてもんじゃねえんだよ…」と、バカ息子に釘を刺しているわけですね。その後も「あいつは昔、バーで3人も殺した…鉛筆で。…鉛筆でだ。」とか、キレのあるセリフで散々息子(と観客)をビビらせてくれます。
  • そして目一杯に盛り上げた(?)後に、ヴィーゴがジョンの家に刺客をわんさか送り込むわけですが、ここからはもうノンストップで「キアヌ・リーブス無双」が修羅の如く繰り広げられます。説明不要。ひたすら凄まじいアクションと殺戮のつるべ打ちです。犬一匹に対して何人殺してんだよ!とか、もはや突っ込む気にもなれない。
  • スタントアクション出身の監督だけあって、いうまでもなくアクション・シーンはキレッキレ。キアヌの殺人演舞には、ただうっとりするしかありません。ちなみに本作の戦闘スタイルには「ガンフー」という名前がついているらしく、当然「銃(ガン)+カンフー」なんだろうと予想するわけですが、別にカンフー要素は一切ないとのことです。おい。でも大変かっこいいので、「かっこいいなぁ」と思いながら見ていました。その辺はアクションに詳しい人が語ってくれていることでしょう…。
  • 個人的にすごく好きだったのは、「殺し屋界」の謎の風習みたいなのを、ホテルのカウンターでの会話などを通じて表現してくれたことですね。裏社会でしか通用しないコインとかのディティールが、地味に「ありそう」と思えて面白かった。コイン1枚につき(たぶん)1人分の死体を始末してもらえたり、裏社会の人間が集まるバーに入場できたり、他の殺し屋の手伝いをするとコインがもらえたり…。不気味であり、キュートでもあり。終盤で残酷にも発動するホテルの「ルール」を含め、決して多くは語られないんだけど、なんだか想像が広がって楽しかったです。
  • 全体的に良かったんですが、あえてひとつ不満を挙げるなら、やっぱりジョンと子犬との交流は、もう少したっぷり時間をとって見せてほしかったかな〜。ちょっと犬が殺されるのが早すぎて、ジョンと犬の関係に対して感情移入しきれなかったのが惜しいなと。
  • 数ヶ月くらい一緒に過ごして、妻を失った傷が徐々に埋まっていく過程とかをちゃんと描いていれば、犬が殺された時に、もっと深い絶望と怒りをジョンと一緒に感じられた気がする。そうすれば中盤のジョンの叫びがさらに心に響いたはずだし、結末もより納得がいっていただろうな、と思うんですけどね。
  • もちろんスピーディーさは本作の魅力だし、展開がモタモタしてないのは素晴らしい美点ですが。先述した「ストレス」の部分を軽めにするためというのもあるのかな…。とはいえこれが初監督作なんだし、その辺の塩梅は今後に期待。
  • ウィレム・デフォーがいつも通り最高だった、とかもっと語りたいんですが、長くなっちゃったのでこの辺で。『もう恐』にも行ったし、絵も描いたし、くたびれた…。では。