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沼の見える街

ぬまがさのブログです。おもに映画の感想やイラストを描いたりしています。

『ブリッジ・オブ・スパイ』感想

映画
  • 映画『ブリッジ・オブ・スパイ』(原題:BRIDGE OF SPIES)観ました。TOHOシネマズ新宿、1100円。スティーブン・スピルバーグ監督、トム・ハンクス主演の実話ベースの本格サスペンスドラマです。
  • このコンビなら絶対に外すわけないし、もちろん重厚な良い映画なんだろうけども、ちょっととっつきにくそうだな〜…と若干敬遠しながらも、その日『イット・フォローズ』とハシゴしようと思ってた『クリムゾン・ピーク』がまさかの満席だったので、「しゃーない、こっちでいいか」ってノリで見たんですが(失礼な上に長い前振り)……実に面白かったです!
  • 舞台は1950〜60年代のアメリカで、ソ連との間で「スパイ合戦」が真っ盛りの冷戦時代です。スパイ映画や小説を愛する人にとっては一種の「古き良き時代」と言えるのかもしれませんが、もちろん現実には、あわや核戦争かという恐怖によって国民の間にビリビリとした緊張感が走っている恐ろしげな時代でした。
  • そんなご時世、トム・ハンクス演じる弁護士ドノヴァンに、ある無理難題が押し付けられます。その内容は「ソ連が送りこんできたスパイ野郎をやっと逮捕したんだけど、そいつを弁護してくんね?」というものです。当時「敵国のスパイ」などという存在に向けられていた国民の「憎悪」の強烈さを考えれば、この申し出がいかに恐るべきものか想像がつくことでしょう。「アメリカに核を落とそうとしている国の手先の弁護をするなんて!」と、憎悪の矛先が自分にも向くことは必至なのです。
  • 加えて、弁護士の仕事としては完璧に「負け戦」でした。当時の世論に照らし合わせれば、敵国のスパイなどまず「死刑」で確定であり、ほぼ酌量の余地はなかったのです。弁護を引き受けることのメリットよりも、あまりにデメリットの方が大きかった。
  • 当然ドノヴァンも「いや〜…わたし保険専門の弁護士なんで…」とか言いつつ回避しようとするのですが、彼の腕前の確かさは完全に上司にバレており、どうしても逃げることができません。「やっつけ仕事でもいいから一応やってくれよ〜」などとパワハラ懇願され、しぶしぶ引き受けることとなります。
  • しかしそのソ連側のスパイ・アベルという男と弁護人として接していくうちに、だんだん「敵ながらあっぱれ」というような感情がドノヴァンの中に湧いてくるんですね。そして、ついには「この男の命を何とかして救いたい」と本気で考えるようになる。そこから、どう考えても無理ゲーである「敵国スパイ弁護ミッション」が幕をあけるのです。
  • このアベルという男の人間性が、冒頭、彼のスパイとしての仕事ぶりが描写されることで明らかになっていくんですが、このシークエンスがとても良かったです。去年は「スパイもの」が非常に豊作だったことが記憶に新しいですが、その締めくくり(?)としてもふさわしい、硬派でリアリティのあるスパイ描写でした。
  • 安アパートで謎めいた男(アベル)が「自画像」を描いている行為から映画は始まるのですが、そこから「スパイ」としての行動が連なっていく流れがとても美しい。ひとつひとつの挙動を丁寧にこなしていき、追っ手をクールにまいて、非常事態にも動じないこのアベルという男に、観客はどんどん惹きつけられていく。この渋い人物造形の素晴らしさには、さすが脚本にコーエン兄弟がガッツリ関わっているだけあるなあ!と思いました。
  • ほとんど言葉を用いない冒頭シークエンスなのですが、ここでしっかりとアベルの人間性や魅力を描けているからこそ、その後ドノヴァンとアベルの間に生まれる友情に説得力が出てきます。
  • そして持ち前の明晰さによって、ドノヴァンはアベルの命を助ける方法を思いつくのですが、それに対する反発はあまりに大きかった。家族には大反対を受け、世間の人々には白い目で見られ、CIAには圧力をかけられ、法の番人であるはずの裁判官にまで「オレの法廷で波風立てるんじゃねーよ」とか言われる始末です。
  • それでもドノヴァンは諦めずに、その手練手管を活かしまくり、アメリカという国の根底にあるはずの「平等」の精神を実現しようとする。弁護を妨害しようとするCIAの捜査官には、こんなことを言います。「きみはドイツ系、ぼくはアイルランド系、出自は違うがお互いアメリカ人だ。そんなぼくたちを結びつけるたったひとつのものはなんだと思う? そいつは…ルールブックさ。」
  • 「ルールブック」は字幕ではたしか「憲法」と訳されていましたが、いっけん理想主義に過ぎるような抽象的な「理念=ルール」というものが、唯一アメリカ人をアメリカ人たらしめているものなんだから、たとえ敵のスパイが相手だろうとそれだけは絶対に守ろうぜ…というドノヴァンのメッセージなわけですね。情に訴えるのではなく、ロジカルに「正義」や「理想」を追求しようとする、実にクールなセリフです。
  • この「理想」を、時に司法や世論を動かす「建前」としても利用しながら、ドノヴァンがどうやってアベルを助け出すのか…?というのが前半の見所になっています。そして後半には、タイトルの真の意味が明らかになるような、さらにサスペンスフルな展開になっていくわけですが…すみません、今日はもう時間がないのと疲れたのでこの辺で終わります…。中途半端すぎますが…(また追記するかも)。
  • 本作『ブリッジ・オブ・スパイ』、「スパイもの」としてはかなり地味なので、ひょっとすると商業的には苦戦が見込まれるかもしれませんが、それでも非常に重厚で真摯な映画なのは間違いありません。サスペンスとしてもしっかり面白く(何と言ってもスピルバーグだし)、意外と笑いの要素も多くて、さらに歴史の勉強にもなる…という一粒で何度でも美味しいお得な作品です。
  • 立場の弱い外国の人を差別するようなアホどもが跋扈し、排他的な価値観がどんどん強まっている現代の日本でも、確実に観る価値のある作品だと思いますので、「難しいテーマなのでは?」等と敬遠せずに是非チェックしてみてくださいませ。それでは。