沼の見える街

ぬまがさワタリのブログです。すてきな生きもの&映画とかカルチャー。

『ババドック』観た!

  • 映画『ババドック 暗闇の魔物』(原題:THE BABADOOK)をDVDで観ました。傑作ホラー『イット・フォローズ』の町山さんのラジオ評論を見つけたので聞いていたんですが、その流れで「去年のベストホラー」だと紹介されたのがこの『ババドック』だったんですね。他にも色んなところで絶賛されていて、内容的にも非常に興味をそそられるものだったので、TSUTAYAで探してさっそく見てみたのでした。一言で言って、素晴らしかったです!!「ホラー(恐怖)は何故あるのか」という根源的な問いまで踏み込んだ映画だと思います。
  • 主人公はいわゆる「シングルマザー」のアメリアで、女手一つで息子のサミュエルを育てています。サミュエルの生まれた日に事故で夫を亡くして以来、孤独のなか仕事や育児に追われていて、かなりギリギリの精神状態にあるようです。
  • サミュエルは心優しい一方でエキセントリックなところもあり、学校でも問題を起こしてばかりで、アメリアには心労が絶えません。それでも息子への愛だけを心の支えにして、母子2人で何とか日々を暮らしていました。
  • そんなある日、「ババドック」というタイトルの不気味な「絵本」を、サミュエルが家の片隅で発見します。いぶかしげに開いてみると、その「仕掛け絵本」にはババドックという怪物にまつわる恐ろしい物語が記されていました。なにか異常なものを感じたアメリアは、その本を棚の奥に隠すのですが、その時から身の回りでおかしなことが起こり始め…?という内容です。
  • 町山さんも言っていたことですが、映画『シャイニング』にも通じる「恐怖」を扱ったホラーなんですよね。「もしも気が狂って子どもにひどいことをしてしまったら?」という親側の恐怖、そして「もしも親の気が狂って自分に襲いかかってきたら?」という子ども側の恐怖。本作における「ババドック」という怪物は、それらを具体化した存在であり、幽霊屋敷モノだった『シャイニング』よりもさらにその「恐怖」を突き詰めているわけです。
  • また「育児」というテーマを扱い、とりわけ「女性が一人で子どもを育てることの過酷さ」という問題に光を当てているという点で、私は2015年の傑作邦画『きみはいい子』を連想しました。かたやオーストラリアのホラー、かたや日本のリアリズム志向の人間ドラマと、場所もアプローチも全く異なりますが、間違いなく「同世代」の「同じ問題」を扱おうとしているところが面白い。
  • 実際『きみはいい子』で、虐待をしてしまう母親(尾野真千子)の心情描写が非常に丁寧に描かれたのと同じように、『ババドック』でもアメリアの孤独と絶望が共感とともに描写されます。恐るべき怪物ババドックとの戦いのなかで精神的に追い込まれていくアメリアの姿に、観客は現代の「お母さん」たちの苦悩を見出すわけです。
  • だからこそ、全体的には陰惨で気の滅入るような恐ろしいホラー映画であるにもかかわらず、見終わった後にどこか優しい気持ちが残るのだと思います。クライマックスでサミュエルが母親にかける言葉にはつい泣いてしまいますし、ラストのババドックとの「決着」も実に納得のいくものでした。「恐怖」に対して、人はどういう風に向かい合うべきなのか。そして何のために「ホラー」というジャンルは存在するのか。そういうことまで考えずにはいられない、非常に優れた批評性をもったホラー映画だと感じました。
  • そろそろ眠いので終わります…。ホラーに興味のある方はぜひチェックしてみてくださいませ。日本版DVDのパッケージはちょっとダサいですが…。では。