沼の見える街

ぬまがさワタリのブログです。すてきな生きもの&映画とかカルチャー。

映画『百日紅』2回目みた!

  • 映画『百日紅』、2回目みてきました。テアトル新宿、1000円。いや〜…やっぱり傑作でしょコレ。まぁ、一本の長編アニメ映画としては相当実験的なことをやっているのは確かだし、賛否あるのもわからんではないです。でも、凄いか凄くないかで言えば間違いなく、めちゃくちゃ凄い作品ですよ。少しでもアニメに関心がある方は、絶対見た方がいいと思います。できることなら映画館で。
  • 見返してみて改めて実感したのは、月並みですが「光と影」の美しさですね。風の強い夜に薄暗い部屋で、龍を描くお栄を照らすろうそくの明かり。宵の吉原(色街)のにぎわいを彩る華やかな光。怪異を見た帰り路の、迫ってくるような朝焼け。真夜中の火事場で、うねりながら弾ける炎。行灯に寄ってくる蛾の、大きく引き伸ばされた恐ろしい影。外泊した後の刺すような朝日や、ゆらゆらと揺れる夏の午後の陽光。こうした光の移り変わりを見ているだけでも幸福感に包まれ、ずっと浸っていたくなります。まじで3時間くらい見ていたい。
  • 色使いも本当に素敵。冬の話の冒頭で、暗闇からパッと一面の雪景色に切り替わったときの、目の覚めるような白。ああ、雪って「眩しい」んだな、と観るものに感じさせます。その「白」はまた、目の見えない少女・お猶の闇に包まれた世界を、逆説的に象徴する色でもあるのでしょうね。
  • しかし私、過去に描いた『百日紅』のイラストで、特に何も考えずに人物を白黒、背景を赤にしてみたんですが(『百日紅 〜Miss HOKUSAI~』みた!! - 沼の見える街)、この色合い、実は案外この場面のテーマとマッチしてますね…。「赤ってどんな色?」「あったかい色よ」っていう会話のシーンですものね。……。……何も考えずに、というのは嘘でした。このぬまがさは何から何まで計算づくだぜです。ほんとうです。かしこいんです…。
  • まぁ嘘はともかく、お栄とお猶ちゃんの雪のエピソードは、その名の通り本作の「白眉」だと思います。この豊かな色彩と音に満ちた映画のちょうど中間に、空白のようにはさまれる「白」と「静けさ」に満ちた掌編。この構成も、実に美しいですよね…。
  • そうそうこの映画、「音」の表現にもすごく力を入れているんですよ。これも本作を映画館で見たほうがいい理由のひとつですね。舟をこぐ水音、雑踏のにぎわい、風の音。盲目のお猶ちゃんが橋の上で、行き交う人々が作り出す音に耳を澄ませる場面の豊かさといったら…。「絵」という視覚芸術を生業にする主人公たち(とそれを享受する私たち)には決して達しえない、音のみが作り出す豊穣な世界の存在を感じさせますね。それは同時に、お猶ちゃんと、お栄や北斎たちとのあいだに存在する、決して越えられない壁でもあったのだ…というのがまた、苦くも美しい余韻を残すのですけれど。
  • なんか妙に文に気合が入ってしまったな…。今日はこの辺で。『百日紅』公式ガイドブックまで買っちゃったので、それを読んだ上でまたなんか書くかもです。声優の話とか、日本のアニメ映画の現在、みたいな話もしたいんですよね…。読む方にしてみれば「もういいよ『百日紅』は…」って感じかもしれませんが…。よろしければお付き合いくださいませ。ではまた。