沼の見える街

ぬまがさワタリのブログです。すてきな生きもの&映画とかカルチャー。

ナイトメアー・ビフォア・『インサイド・ヘッド』

  • ピクサーの『インサイド・ヘッド』(原題:Inside Out)観てきました。ざっくり感想を言うと、さすがピクサー印だけあり、とにかくハイクオリティで最後まで退屈しない良作でした。ただ「大絶賛!」というほどではないかな〜という感じでしょうか。でもすごく楽しめましたし、普通に全然オススメです。みんな行ったらいいと思いますよ、ピクサーだし。
  • ただ、ですね…。映画そのものについて語る前に、昨日ちらりと触れた悪名高い「アレ」について話しとこうかと思いまして。で、それが予想以上に長くなりそうでして…。なのでもう今日はいっそその話だけにして、本編の話は後日にしようかと思います。
  • 「アレ」というのが何かというとですね。この映画、日本版の主題歌をドリカムが歌ってるんですよ。まぁそのこと自体は悪くないんですが(良くもないけど)、なんとその曲を吹き替え版だけでなく字幕版でも、わざわざ上映前に時間をとってフルコーラスで聞かされるんですね。さらに驚くべきことに、その曲に合わせて一般人から公募した「幸せそうな家族の写真」的な代物が、次々と大写しにされていくんですよ…。
  • えっとですね…。すでに散々あちこちで批判されているものに、また石を投げるのもちょっと気がひけるのですが…。うん、本当にひどかったです。アレはない。考えた人のセンスを疑わざるを得ないですよ…。
  • すでにネット上でも、「知らない人の幸せ写真の洪水とかマジ勘弁」「本編の前だから席も立てない」「字幕版でも逃げられない」「チェックメイトだ」といった阿鼻叫喚の声が響き渡っているようですね。むろん私も同意見ですが、個人的に特筆したいのは編集のマズさでしょうか…。曲のリズムに合わせて写真がひょいひょい出てくるあの感じが絶妙に「やめてえぇ…」という感じで、何かを投げつけたくなりました。そういうパワポの特殊効果みたいなのホントいいから…。
  • あと「ドリカムは悪くないよ!」という優しい声もあるようですが、別にドリカムを擁護する必要は全く感じませんでしたね…。ドリカムも悪くなくはないと思うな。だって「ライリーライリーこっちむ〜いて♪」ってさ…。まず、いくらアニソンだからってキャラクター名を堂々と歌詞に入れるセンスがもうさ〜(ガンダムのエンディングならまだしも)。それと、べつに「こっちむいて」みたいな話ではないしさ(ムーミンのうたじゃないんだから…)。ディズニーからの頼まれ仕事で色々な制約もあったんでしょうけど、それにしたってさ…。あんまり主題歌としても上等なものではない、と私は感じました。
  • ともあれこの「特別映像」、幸せ写真の気まずさと編集のマズさと、ドリカムが本質的に抱えている(良くも悪くも)古臭いセンスが奇跡的に化学反応を起こし、その負の側面が500倍くらいに増幅された結果がコレだよ!ということですね。一言で言えば、死ぬほどダサいです。
  • とはいえ、この企画の最大の問題は「ダサさ」ではないと私は思います。ダサいくらいなら別に許せますよ。何が一番まずいって、『インサイド・ヘッド』という作品のテーマやメッセージとあまりに内容がかけ離れてしまっているということですよ。正反対ですらあると思う。
  • いまちょっと調べてみたのですが、「あなたの<感情>を写真に撮って送ってください!ひょっとしたら映画に出られちゃうかも?」的な企画だったんですね。その結果、ニコニコした子どもとかの写真がいっぱい送られてきたわけです。でもまあ「あなたの」って言ったところで、ディズニーアカウントがないと写真は送れないので、だいたいは大人が子どもを撮っているわけですね。「ディズニー映画に我が子が出られるかも?じゃあ送ろう!」って思えちゃう思慮深い大人がいっぱいいたようです。よかったねディズニー。
  • そんな賢い大人たちは、「ディズニー映画に出られるかもよ!」とかそそのかして子供に笑顔を作らせて写真をパチリと一枚とって「ヨロコビでござーい」って感じで送ったんでしょうね。「怒ってみて!」って言って「イカリでござーい」って送ったんでしょうね。そんでめでたく集まった写真をまとめてディズニー・ジャパンの広報担当あたりが特別映像をこしらえたわけですね。「あなたの感情が主人公!これぞ『インサイド・ヘッド』でござーい」って。…ふざけなさんなよ。
  • だってまさしくそういった欺瞞こそが、この映画で「ダメだよ」と否定されていることそのものでしょう。他人に見せる(見せびらかす)ために無理やり感情をでっちあげてしまえば、自分の奥底の最も大切な想いを殺すことになってしまう。それこそが本作でいちばん大切なメッセージでしょう。特に大人は、子どもに特定の感情を強いることのないように気をつけようね、奥に隠れた気持ちを読み取ってあげようねっていう、そういう話でしょ!
  • にもかかわらず、「あなたが主人公」なんていう美名のもとに、作品のテーマと完全にかけ離れたキャンペーンを自信満々にやってしまっているわけですよ。この点が何よりもひどいと思います。編集やドリカムがダサいことなんて些細な問題だと思えるほどに。
  • とはいえ、この企画を考案したり作ったりした人も、別に悪気があったわけじゃないんでしょう。「映画に出られたら嬉しいよね!」くらいの軽いノリだったのかも。でもその「軽いノリ」が、結果的としてはけっこう激烈な反感を生んでしまい、明らかに作品の足を引っ張っているわけで…。まあネットの反応が全てでは全然ないですが、そういう声も真摯に受け止めて、次に活かしてほしいっスね。ディズニーの広報的なものって毎回アレコレ言われてますが、本作では特に、やっちゃったな〜という感じ。
  • 私のインサイド・ヘッドの「イカリ」がうっかりデスロードしてしまいましたが、まあ逆に言えば今回の件、今後長く語り継がれていく黒歴史になる気もするので、劇場でチェックする価値はあったと思います。先述したように、本編はとても素敵な良作ですからね。感想はあらためて後日。くたびれたのでこのへんで。