沼の見える街

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『くまのアーネストおじさんとセレスティーヌ』観た!

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  • 『くまのアーネストおじさんとセレスティーヌ(原題:Ernest&Celestine)を観ました。シアター・イメージフォーラム、1200円。ひたすら愛らしく、美しいアニメでした。埋もれるにはもったいない、質の高い映画。
  • 本作はフランス映画だけど、原作はベルギーの作家ガブリエル・バンサンの人気絵本シリーズ。映画のあらすじをざっと書くと、子ネズミの少女セレスティーヌはある日、腹を空かせた貧しいクマのアーネストに出会う。空腹のあまり彼女を食べようとするアーネストだが、セレスティーヌは持ち前の機転で切り抜け、それをきっかけに二人の奇妙な協力(共犯)関係が始まり…?というお話。
  • まず、絵がとにかく素晴らしい。シンプルな線と淡い水彩色が生み出す空間の美しさに惚れ惚れする。意図的に作られた「塗り残し」も独特の軽やかさを生んでいて心地よく、ずっとこの世界の色彩に浸っていたくなる。
  • 線や色彩だけでなく、動きの演技も本当に素敵。一例をあげると、アーネストとセレスティーヌの出会いの場面がすごくいい。ゴミ箱でスヤスヤ眠るセレスティーヌ(かわいい)をつまみあげ、スムーズに食べようとするアーネスト(おい)。だが目を覚ましたセレスティーヌは動じずに、「名前は何ていうの?」と問いかける(かわいい!)。だが一応「アーネスト」と名乗るものの、気にせず彼女を食べようとするクマおじさん(おい!)。食べられまいと抵抗しながら自分も名乗り返し、「よろしくね」と言って手を差し出すセレスティーヌ(かわいいい)。当然のごとくその手を食べようとするアーネストだが(おいいい)、セレスティーヌはさっとよけてビンタを喰らわせ、それから……っていう、二人の感情と動作が交錯する一連の流れがリズミカルで最高でした。ひとつひとつのアクションや表情が本当に生き生きとしていて、とにかくキュートでユーモラス!公式HPの予告編でも少し見られますよ。
  • あと『マッドマックス』みたいな(?)カーチェイスとか、迫力あるシーンも意外と多し!途中でアーネストが、セレスティーヌが暮らす地下の世界に行くんだけど、クマは「恐るべき脅威」として語り継がれているため、彼を見たネズミたちは大混乱。ネズミ警察まで出動する大変な騒ぎになり、大量のネズミに追いかけられるアーネストとセレスティーヌ。ここから始まる「地下→地上」のノンストップ逃走劇は実に見応えがあって、アーネストの体の大きさとネズミ世界の小ささをうまくギャップとして活かしている。さらに地上ではクマの警察にも追いかけられ、(ジブリへのリスペクトが強く感じられる)白熱のカーチェイスが展開! 『TED2』といい『クーキー』といい本作といい、最近の映画におけるクマとカーアクションの親和性の高さを実感せずにはいられない(なんだこの雑な分析)。
  • クマ界とネズミ界、どちらからもお尋ね者になってしまった二人は、アーネストの小屋でこっそり生活を始める。この静かなシークエンスもまた大変に良かった…。映画秘宝で「なんかエロい」と書いていた人がいたけど、ちょっとわかる。もちろん直接的なシーンはないけども(あたりまえだろ)、あの薄暗い部屋で、世間から切り離された二人が寄り添いながらひっそりと暮らしている様子には、確かに独特の官能的な匂いを感じ取ることができた。「水彩」という手法を、明るさや和やかさや可愛らしさだけでなく、暗さとか湿気とかの「生々しさ」を表現するためにすごく有効に用いていて、それもまた間接的な「エロさ」を生んでいたんだと思う。
  • まあ元が子供向け絵本ということで、突っ込みどころもなくはないんですけどね…。そもそも大前提の話をすれば、クマとネズミの2種族だけが普通に人間的な生活を営んでいる、っていう世界観に馴染むのに少し時間がかかったかな…。いや、もちろん「絵本だから!絵本だからさ!!」っていうことなんだけど…。リアリティラインをどの辺におけばいいのか、やや戸惑ったっていうか。ピクサー作品でたとえると(同じくネズミが出てくる)『レミーのおいしいレストラン』ではなく、『カーズ』のリアリティレベルなんですね。「登場人物全員クルマ!細けぇこたぁいいんだよ!」っていう。でもまあ、すぐに慣れました。
  • あと1点だけ野暮な不満点を書けば、主人公コンビの所業がわりとガチの犯罪行為だったのに、そのこと自体は裁かれることなくナァナァで流されちゃったのは(子供向けとして)少し不満。子どものセレスティーヌはともかく、おじさんたるアーネストには何らかの罰を与えてほしかった。お菓子屋さんの手伝いとして働かされるとか、軽いのでもいいから。ま〜、被害にあったお菓子屋さん自体がけっこうな悪役として描かれていて(歯医者とのマッチポンプ商売!)バランスはとれていたんだけど。でも「お菓子屋さん」という仕事をディスったままで特にフォローがないのは「い、いいの…!?」という気も…。まあ、細かい話でした。なんつっても全員クマとネズミだしな。細けぇこたぁいいんだよ!
  • とにかく全体的には本当、「上質」という言葉がぴったりくる美麗なアニメーション映画でしたよ。「まったく違う文化や性質をもつ他者であっても、恐がって排除するのではなく、お互いに尊重しあおうね」という、子供向け作品として極めてまっとうなメッセージ性。かといって説教臭くはならず、ほんのりと効かされた「毒」や「エロス」の味わいもあり、大人も存分に楽しめるようになっている。これほど優れた作品が、関東ではわずか1館、それも1日1回という超小規模公開というのは実に惜しまれますね…(ちなみに渋谷では18日まで!)。とはいえ12月には日本版のDVDも出るようなので、海外アニメファンはぜひチェックしてみてね。今日はこのへんで。