沼の見える街

ぬまがさワタリのブログです。すてきな生きもの&映画とかカルチャー。

『007 スペクター』&『I LOVE スヌーピー』感想

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  • 実は先週、映画『007 スペクター』と『I LOVE スヌーピー THE PEANUTS MOVIE』を同じ日にハシゴしていたのですが、『響け!ユーフォニアム』やら『スター・ウォーズ』やらにかまけていたら感想を書くタイミングを逃してしまったので、今更ながら適当に書いておこうと思います。2本立てのため、マジに適当です。すみません…。
  • 『007 スペクター』。TOHOシネマズ日本橋、1100円。ダニエル・クレイグになってから4作目の『007』ですね。一応、前作までに対する私のざっくりした感想を言っておくと、『カジノ・ロワイヤル』→殺伐としていて面白かったけど肝心のカジノ対決がいまいちスッキリしなかった気がする(うろ覚え)。『慰めの報酬』→見てない。『スカイフォール』→全体的に面白かったけど最後の方が何か納得いかなかった気がする(うろ覚え)。こんな感じです。…ひどいですね。うろ覚えか見てないかどっちかじゃねーか…。
  • そんなわけで、とてもじゃないけど「007」の熱心なファンとは言い難いわけですが、それでも続きがあるならぜひ観に行こう!と思えるくらいには『スカイフォール』が面白かった(気がする)ので、今回の『スペクター』も当然のように観に行ったのでした。
  • 結論を言えば、たいへん楽しかったです。前作までの(良くも悪くも)真面目くさった雰囲気はかなり軽減されて、「復活!ぼくらの娯楽バカアクション」というノリになっていましたね。リアルかつシリアスな方面は前回でやりきったのだし、今回はフルスロットルでハジケちゃおうZE!細かいことは言いっこなし!ということでしょう。とか言いつつもいつも通り、憎たらしいほどの高級感に満ち溢れてはいるのですが…。「スパイ映画」大豊作イヤーである2015年を締めくくるにふさわしい、華やかな大作だったと思います。
  • 冒頭のシークエンスは、さすがに全体から浮き過ぎじゃねーの?とすら思えるほど凄かったですね。「死者の日」のパレードで盛り上がるメキシコの街で、ボンドと謎の敵が、スピード感と祝祭感に溢れた追いかけっこを繰り広げます。最初の見事な長回しも、どうやって撮ったのかを考えると気が遠くなってくるような美しさでした。そこから続くヘリコプターバトルも荒唐無稽なド迫力で、初見ではまさかこれが全て実写だなんて信じられないことでしょう。この冒頭シーンを見るためだけに映画館に行く価値は確実にあると思います。
  • そして誰もが言うことでしょうが、本作の白眉は、タイトルにもなっている悪の組織(!)「スペクター」にボンドが初めて潜入するシーンです。今時「悪の組織」なんてものを恥ずかしげもなく正面から描く姿勢がもう好感度マックスですね。敵ボス・オーベルハウザーのシルエットによる登場シーンの格好良さにはクラクラさせられました。
  • そこから続く、妖しい魅力を放つ夜のローマでのカーチェイスも凄かったです。それにしても、ヴァチカン市国のサン・ピエトロ大聖堂の広場で、ギャルギャルと車を転がしていたように見えたんですが…気のせい? 気のせいじゃないとしたら、よく許可とれたな…。007レベルだとローマ法王もOK出すのだろうか…。炎だのパラシュートだの、愛車アストン・マーチンの面白ギミックを駆使して敵を追っ払うくだりも最高でしたね。作り手のニッコニコした顔が目に浮かぶようです。いい大人が楽しそうにしちゃってまぁ…。素晴らしい。
  • イタリアの名女優モニカ・ベルッチの(チョイ役とはいえ)出演を始め、今回の「ボンド・レディ」であるレア・セドゥや、新しい「M」となったレイフ・ファインズなど、私の好きな俳優さんの出番が多いのも嬉しかったです。まあ敵ボスのクリストフ・ヴァルツは(登場シーンはカッコよかったけど)もうちょい恐ろしい感じが良かったかな…。とはいえ軽いノリの話だし、これくらいの塩梅がちょうどいいのかも。あんまり毎回ハビエル・バルデムみたいな敵にこられても胸焼けするか…。
  • ぶっちゃけ物語的な隙はかなり多いんですが、ツッコミどころも含めて愛すべき作品だと思います。今週はもう『スター・ウォーズ』の攻勢が凄まじすぎて、早くも埋もれちゃってる感ある『スペクター』ですが、「気軽に楽しめる最高峰のエンタメ」という非常に得難い映画ですし、まだまだお勧めいたします。おしまい。

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  • 続いて『I LOVE スヌーピー THE PEANUTS MOVIE』ですね。TOHOシネマズ日本橋、1100円。スヌーピーが出てくるチャールズ・シュルツの漫画『THE PEANUTS』がまさかの3D映画化ということで、私もすごく楽しみにしていました…と言いたいところですが、TOHOシネマズが上映前のアニメを使ってあんまり長々と(1年間も!)宣伝するもんだから、「なんでもいいからさっさと始まれよ!」とキレ気味に思っていた、と言う方が近いですね…。何回「ヘーーーイ!」「スヌゥピー!?」を見せられたと思ってるのさ!!せめて数パターン作っとこうぜ、TOHOさんよお…。
  • それはともかく、あのシュルツの独特な描線を、よりによって「3Dアニメ」で表現するなんて…!?という驚きはもちろん大きく、興味を抱きながら観に行ってみました。そしたらこれが非常に良くできていてですね…まさに『THE PEANUTS』の世界の立体的な再現にちゃんとなっていて、まずはそこにびっくりしました。おなじみのあいつらがコロコロ動いてる!かわいい!
  • 物語そのものは基本的に子供向けというか、他愛もないものです。失敗ばかりしているダメ野郎のチャーリー・ブラウンが赤毛の少女を恋をして、イケメンかつ万能の飼い犬スヌーピーの力を借りながら、時には挫折しそうになりつつも、ささやかな試練を乗り越えていき、最後には成長をとげたりとげなかったりする…みたいなお話ですね。人が死んだりしないので、お子さん連れでも安心です。
  • しかしボンクラの恋物語だけだと絵的に地味すぎると思ったのか、ちょいちょいスヌーピーの妄想による派手な飛行シーンなどが挿入されます。その妄想の方にも意外とちゃんとしたお話があったりするんですが、本筋の恋物語と絡むような絡まないような微妙な距離感を保ったままで、2つの話を並行させつつ映画は進んでいきます。どっちもなかなか楽しかったです。
  • 子供向けのストーリーながらも退屈せずに見られた理由として、ところどころに挟まれる、原作『THE PEANUTS』に対するリスペクトに満ちた小ネタの数々があげられます。最高だったのは、冒頭の「20世紀FOX」の「パンパカパーン!」というファンファーレが、「ポンポロローン♪」というピアノの音に差し替えられていたところですね。「あれっ!?」と思ったら、実はそれを弾いているのはピアノが大好きなシュローダーくんだった…っていう、原作ファン大喜び必至の小粋なネタがいきなりぶち込まれます。全くニクいですね!
  • こうしたニヤリとするような小ネタが全編にわたって大量に散りばめられているわけですが、単なる原作ファンへの目配せに終始することなく、物語の一部として非常に有効に機能している。たとえば原作でもおなじみの、チャーリー・ブラウンの「凧」を食べちゃう意地悪な木が、終盤とても大事な役割を担っていたりとか…。いちいち挙げませんが、そういう原作の要素の活かし方にすごくクレバーなものを感じましたね。とても愛がある。
  • とにかく非常に忠実に『THE PEANUTS』を再現した上で、子どもが見ても楽しめるようなエンタメ作品に仕上げている点、本当に素晴らしいと思います。ただその上で言うのですが、やっぱり原作ファンとしては、「たしかに面白いし楽しいんだけど、『THE PEANUTS』の魅力ってそういうことでもないような…」などと面倒臭いことを思ってしまう部分もあるんですよね。なんとも否定しがたい「コレジャナイ感」があると言うか。
  • それを強烈に意識してしまったのは、皮肉なことに、作り手のサービス精神によって付け加えられたのであろうラストのシーンなんですよね…。チャーリー・ブラウンフットボールを蹴ろうとするも、ルーシーにパッと外される、原作のすごく有名なお約束ギャグ。原作を尊重しているからこそ、本作の作り手もこのくだりを入れてきたのでしょう。
  • ただ、その「お約束ギャグ」を見て、逆に「ああ、『THE PEANUTS』の笑いってそもそもこういうのだよな…」と再確認しちゃいまして。クールで、ドライで、淡々としていて、あんまり「いい話」みたいな要素はない…。それをしみじみ実感しちゃったんですよね。
  • そのこと自体は全然いいんだけど、なんか、すっ転んだチャーリー・ブラウンが「ニコッ」て微笑むんですよ。「こんなダメな僕もまた僕だよね!」みたいな感じで。いや、すごく前向きなオチだと思うんですけど、それを見て何故か無性に「ええ〜…」って感じちゃって…。『THE PEANUTS』のせっかくのシニカルでクールでドライな笑いが、「いい話」っぽい雰囲気で消費されちゃった気がして、ちょっと嫌だったんですよね…。別に「とほほ…」って雰囲気で終わればいいじゃん!って。
  • そう考えると、何かあの「ニコッ」というラストに、本作の「コレジャナイ感」が集約されていた気さえしてくるというか…。ユーモアの種類が根本的に違うというか…おわかりいただけるだろうか…無理か…。もっといえば、そもそもTOHOシネマズの「ヘーーイ!」とかさ〜…スヌーピーってあんなテンションじゃなくない…? みたいな…。そういう面倒臭いことを思ってしまう人は…そもそも見なければいいのかもしれませんが…うーん。
  • …まあ、子ども向けの作品に『THE PEANUTS』のもう一方のエッセンス的な面白さを求めるのは理不尽、ということなのでしょう。これを見た子どもたちが映画を入り口に原作に入って、「映画とはなんかテンション違うけど面白い!」って思うのかもしれないしな。それはそれで素晴らしいことです。
  • そんな野暮きわまりない文句も含めて、総じて楽しめる作品でした。久々に原作を読み返そうと思います…。長すぎるのでこの辺にしておこう。とほほ…2本立てなんてもうコリゴリだよ…。