沼の見える街

ぬまがさのブログです。おもに映画の感想やイラストを描いたりしています。

『雄獅少年 少年とそらに舞う獅子』が凄かった話

中国アニメ映画『雄獅少年 少年とそらに舞う獅子』を観てきたんですが、めちゃくちゃ面白かった。感想など書き残しておきます(大きなネタバレは多分ない)。

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(前の上映で公式の方にお声かけられてたのだが忙しくて行けなかったので)1週間限定の再上映が始まった池袋で観てきたんだけど、これがとんでもなく凄かった。『羅小黒戦記』などの中国アニメファン、っていうか海外アニメファン、っていうかアニメファン全般は間違いなく見て損ないです。ほとんどの人が一度も見たことないタイプのアニメ映画であることは約束できる。

dianying.jp

ざっくりストーリー。田舎の冴えない少年たちが中国の伝統的な芸能「獅子舞」を極めようと頑張る話。獅子舞と言っても、日本のいわゆる獅子舞とは異なり、現実に中国に伝統的に存在する「獅子舞」をもとにした造形で、ライオンと虎といもむしを融合したような、なんともいえない不気味さと美しさをたたえた異形の外見をしている。

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そんな異形の獅子舞がド派手にアクションを繰り広げる冒頭からガッと掴まれる。(アジア的な美を求める海外の観客にも強く訴えそうだな、と思ったし国際的な戦略も感じた。)本作の「獅子舞」、伝統芸能と呼ぶにはあまりにアクロバティックでアグレッシブというか、スポーツとダンスとアートとバトルを融合したような何かとなっていて、とにかくすごい熱量のアクションを見ることができる。
『雄獅少年 少年とそらに舞う獅子』、獅子舞アクションの激しさで観客にパンチを叩き込みつつ、ズッコケ三人組みたいな冴えない少年たちとおっさんのしょう~もないギャグが連発する楽しい成長譚のギャップもいい。

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悲しさも熱さもたっぷりな王道感動ストーリーな一方で(予告からも伺えるけど)今どきこんなんやる!?ってくらい本当〜にマジしょうもないギャグとかも死ぬほど入れてきて、「絶対にウェットなだけの話にはしないぞ」という意地っていうかもはや思想を感じた。振れ幅がでかすぎるんよ! …まぁ最近見た中国の実写コメディ系(唐人街探偵とか)のトーンもこんな感じだったので、中国の観客的には安心して笑えるいつものノリなんだと思う。でもそんなスットコドッコイな前半があったからこそ、中盤の「ある出来事」から作品の空気が一転するくだりは真剣に心打たれてしまった。
本作は獅子舞の幻想的なインパクトが目立つ一方、実はファンタジー的な要素は皆無に等しく、アニメ作品としては異例なほどリアリティレベルが高い。貧困や格差など、社会の厳しい現実からも目を離さず、「獅子舞なんかやって何になるの?お金にならないでしょ?」という冷めた視点も常にある。師匠ポジションのおっちゃんも昔は獅子舞を極めていたけど、現実の重みに負けて辞めてしまった。主人公も、あるどうしようもない運命によって、大好きな獅子舞から引き離されてしまう。
そのあまりに悲しい獅子舞との別離と、そこからどう主人公が立ち上がっていくかを示すことこそが、本作の最も素晴らしく、心を熱くするところだと思う。誰だって夢も希望も持っているけど、世の中は圧倒的に不平等であり、誰しもが夢や希望を追い続けられるとは限らない、という非情な現実を(アニメとしては前代未聞なほど)高い解像度で描いてみせる。しかし、だからこそ「現実を超越したどこか」に繋がる扉として獅子舞が輝きを放ち、あの屋上での美しく力強い「舞」の場面が脳裏に焼き付く。間違いなく本作の白眉だと思う。
 そんな中盤の展開にも顕著だが、「現実社会への眼差しとエンタメ性の結合」という最も面白いと感じたポイントが(作品としては全く違うのだが)先日のインタビューでも語った『時光代理人』と深く共通してるなと。正直、どちらもいま日本アニメに一番「ない」タイプの作品のようにも感じられる…。

natalie.mu

またこの記事で、中国アニメの作り手は「世界中の誰にでも伝わる面白さ」を志しているのではないか、と語ったけど、『雄獅少年』もまさにそれだった。中国伝統の「獅子舞」という極めてローカルな題材を扱いながら、どの国/社会/文化にも絶対に存在するであろう苦悩や情熱を描いている。
あの素晴らしいシーンは、芸術でもスポーツでも趣味でもなんでも、不平等で苦渋に満ちた現実から飛躍するための"何か"を心に抱く人であれば、世界のどこで生きていたとしても確実に心を打たれるのではないかという凄みがあった。
 それと『雄獅少年』、序盤でヒロイン的な女性キャラが登場して、どう絡むんだろ〜と見てたら、全く予想してない形で物語にズシンとした重みを与えるキャラだったのでかなり驚いた。主役陣みんな男だし、しょうもないギャグもたくさんあるし、ボーイズクラブ的/ホモソ的になりかねない話のはずだが、彼女のキャラの「語られ方」のおかげで絶妙に回避されていて唸る。それでいてちゃんと重要な役割も与えられていて、クライマックスでは彼女の行動が契機となり、本作で最もストレートに「熱い」展開へとなだれこんでいくのも素晴らしい。結末は必ずしも甘くないけど、主人公たち(彼女も含めて)と似た境遇にいる、心に「獅子舞」をもつ人たちを、力強く励ます終わり方になっていた。とにかく最初から最後まで考え抜かれた作りゆえに「誰もが楽しめる」王道エンタメになったのだなと脱帽。
 そんな『雄獅少年』、すっごい良かったけど1つだけ引っかかったのは、クライマックスの主人公のある選択(ケガをおして…のくだり)を肯定しちゃうのは、本作を一種の「スポーツもの」として見た時ちょっとどうなんだろ…とは初見で感じなくもなかった(よくある展開といえばそうだが、現代スポーツものではかなりアップデートがされ始めてる部分でもあるので)。
…だが、本作における獅子舞は彼にとっては単なるスポーツじゃない、人を惨めな生活に押し込める構造から一瞬でも飛び立つための突破口なんだ!!ってことは中盤の描写からもひしひし伝わってきたから、それを安全圏から「無理しすぎるのはどうなの」って批評すること自体が野暮ってものかもしれない、と考え直してもいる。
 アカデミー賞直前で映画館も話題作で大渋滞ではあるが、池袋にアクセスできる人には『雄獅少年 少年とそらに舞う獅子』を強くオススメしたい次第。特別上映の劇場は池袋グランドシネマサンシャインで、2番目に大きくて立派なスクリーンを当ててもらってるにもかかわらず、私が見た初日はそんな埋まってる感じでもなかったので本当もったいない! とりあえず『羅小黒戦記』勢は今週中に全員駆けつけるべき(乱暴)。私的にもかなりの確率で今年のベスト10に入る勢いです。おしまい。