沼の見える街

ぬまがさワタリのブログです。すてきな生きもの&映画とかカルチャー。

図解「動物界の円」

「円」はその美しさや神秘性から、古くから人間に愛されてきた図形です。しかし「円」に近い形が、動物の世界にいきなり"出現"することも…!そんなわけで「動物界の円」のミステリーを図解しました。

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人間にとって「円」は特別な図形だ。その調和のとれた美しさは、「完璧な形」として、何千年も昔から人類の心を惹きつけてきた。円こそは「人間らしい図形」だと考える人も多いかもしれない。だが「円」は、動物界にも思わぬ形でその姿を表す。

例えば、シチメンチョウの群れが死んだネコのまわりで  大きな「円」を描くようにぐるぐると回り続ける光景が目撃されたことがある。まるで謎の儀式のように不気味な「円」の正体とは…?

不思議な「円」には、動物の習性が関係していそうだ。動物界では「捕食者検査」という行動が見られることがある。「食べられる側」の動物が、なぜか逆に捕食者に近づいていく行動だ。いっけん無駄な危険を犯すようだが、捕食者の行動を観察・学習したり、仲間に警告できるなどメリットも多い。
シチメンチョウも同様の行動をする。さらにシチメンチョウやニワトリなどキジ目の鳥は、群れの秩序を保つためか「目の前の鳥を追いかける」行動をとることが多い。この2つをあわせて考えると…動かないネコへの恐怖と好奇心が入り混じった「捕食者検査」と、「前の鳥を追う」という習性が同時に"発動"したため、シチメンチョウたちは文字通り「ループ」に閉じ込められた。結果、不思議な「円」が現れたのではないだろうか。まるで自然界に生じた美しい「バグ」のように…。

「ミステリーサークル」のように大きな円を描く動きは、他の動物にも見られる。ただし、目的は異なるようだ。トナカイは、大きな円を描くように集団で走ることがある。
台風を思わせる巨大な「渦」の勢いは圧倒的だ。「円」の内側には子供やメスがいて、外側を大人のオスが囲む形だ。捕食者や狩人から、群れを守るための動きだと考えられる。「円陣」は動物界でも強力な「戦型」となっているのだ。

不思議な「円」は海の底に現れることもある。場所は、日本の奄美大島の沖合。

直径は約2m。外周には約24〜32本の溝。地元のダイバーたちは幾何学模様のミステリーサークルを不思議に思ったのだが…。

この巨大円を作ったのはなんと「魚」だったと判明した。その名も…アマミホシゾラフグ!奄美大島や沖縄の海の小さなフグ。2012年に新種として発見された。星空のような模様が名前の由来。体長10cm程度の小さな魚が自分の20倍もの大きさとなる複雑で巨大な「円」を、いったいどうやって、なぜ作るのだろう?

この巨大なサークルは、実はフグの「産卵場所」だ。オスは約1週間も休むことなくサークルを作り上げる。まず、サークルの中心となる「目印」を作る。海底に腹を押し付けて作る。「目印」にあわせて内側と外側を往復しながらひれを使って砂を掘り進む。最初は乱雑だが、角度を変えながら何千回も往復を繰り返すうちに、放射状の「溝」が造られていき…最後には驚くほど秩序のある「サークル」が完成する。貝殻を運んで飾り付けもする。この円(産卵床)を気に入ったメスは、その中央で産卵。オスはメスのほほをかんで産卵を催促。この産卵床の出来栄えが子孫を残せるかに直結するため、オスは美しい「円」を作るよう進化した。「円」に心惹かれる動物は、人間だけではないようだ。

身近な例では、ミツバチの巣の「六角形」を並べた幾何学模様にも、実は「円」の形が関わっている。そもそもミツバチは円形に近い「部屋」をなるべく同じ大きさで、少ない材料で、たくさん作ろうとするようなのだが…これらの条件を完全に満たす形が、六角形なのだ。1つの円のまわりに、同じ大きさの6つの円を置くと全てが内側の円に接し、円どうしも重ならない。円をなるべく隙間なく、密度が高くなるように
並べていくと、まさにハチの巣構造になるわけだ。

警戒・好奇心・防御によって生じる「動き」の面でも、アピールや幾何学的な合理性のための「形」の面でも、自然界には様々な形で「円」の秘密が潜んでいる。人間が円を「完璧な形」として愛してきたように…生きものたちの奥深いところに「円の形」は刻まれているのかもしれない。

 

 

今回のオススメ参考書籍『自然界に隠された美しい数学』。自然界や動物界になぜか現れる、幾何学的な美しい形に潜む数学のミステリー。今回の「円」図解に巻き貝の螺旋の話とかも本当は入れたかった(ちょっとズレるのでやめたけど)

amzn.to

シチメンチョウ猫ぐるぐる事件の動画はこちら。発見当時は「ネコを蘇らせようとしてる?」とか様々な声が飛び交った。

www.youtube.com

 

アマミホシゾラフグのサークルについて詳しく学べる。

nature-and-science.jp

 

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